美しい話ではない
 ジェイコム株誤発注事件で、そのどさくさに紛れて、多くの証券会社が巨額の利益を得た。そのことに対して与謝野馨金融担当相が、「法律上は確かに取引が成立しているが、誤発注を認識しながら間隙を縫って、(証券会社の)自己売買部門で取得するのは美しい話ではない」と指摘した。この発言に誰もが、株取引に美しいも美しくないもあるかよ!と突っ込んだに違いない。ぼくも突っ込んだ。この野郎本当に与謝野晶子の孫なのか、と。こういう言葉に対する美意識やセンスは遺伝しないんだな、とまで思った。だが、この発言があったおかげと言ってよいだろう、多くの証券会社が利益を返上すると言い出したのだから。結果よければすべて良し、とは思わないが、とりあえずこの国の良心はなんとか保たれた格好だ。そこで、というわけではないが、この与謝野大臣の「美しい話ではない」発言を一度吟味してみようと思った。
 どこかの新聞が、この事件と比べて、ホリエモンや村上ファンドも「違法ではないものの、美しいとはいえない」と書いていたが、それとこれとは話が全く違うだろう。彼らの方を持つ気は毛頭ないが、彼らはこの資本主義社会にゲリラ的かつ強圧的だが真正面から挑んでいるのである。火事場泥棒と一緒にするのはいくらなんでも失礼な話だ。思うに証券会社とは株取引を公平に円滑に進めることによってこの資本主義社会を適正に隆盛を図るべく構築していくのがまず役目だろう。その過程で儲けるのはどんどん儲けられたらよい。だがそういった社会を管理する側が、蜜が漏れているからといって、その蜜にたかってどうするのだ、というところだろうか。蜜を掃除してきれいにしないといくらでも蟻がたかってくるわけで、おまえらがたかってどうするんだ、収拾できないではないか、と。金融相の立場から見れば、この証券市場は、人類が経済を自立的に発展させた上に自然に出来上がった美しい構築物に見えるのだろう。お金がうごめくからと言って美しくないわけではない。経済学から見ればお金は単なるツールのひとつに過ぎないわけで、汚いものでは決してない。その美しい構築物を、それを管理する側の証券会社が汚したのだ。たまりかねて「美しい話ではない」という発言になったのだろうか。それと「美しい話ではない」という言い方は「美しくない話である」と言うよりはるかに効果があるだろう。そう思うと、やっぱりさすが晶子の孫かなと思わなくもない。あっぱれあっぱれ、と思いたくもなるが、まぁ結局どうでもいい話ではある。

 今度の事件で肝心なことはもっと別にあるような気がする。それはシステム全体の問題だ。
 今日も日経平均株価は16,000円の大台をうかがおうかという勢いである。バブル再燃はもう間違いないだろう。かつてのバブル景気のときは今のようなシステムではなかった。証券市場と証券会社は今と同じようにオンラインで結ばれていただろう。しかし一般のトレーダーはいちいち証券会社に電話してどの銘柄をいくつ売るとか買うとか言わないと売買が成立しなかったはずだ。それが今は家にいながらにしてクリックひとつで瞬時に取引が成立する。今度の事件もだからこそ起こったのである。つまり無数のトレーダーと証券市場が証券会社を通じて直結しているようなものだ。だから莫大な取引量が一瞬にして成立する。証券市場はできる限り多くの取引量を円滑にスピーディーにするべく日々努力を怠らない。東証は昼間働いている人向けに、夜間も取引をすると言っている。莫大な取引が日毎増えていき、それがますますスピードアップしていく、技術革新と共に。
 思うにまず一つ、それだけの取引をシステムがすべてまかなえるのか。それはきっとハードウェア、ソフトウェアの向上が解決するのだろう。今度の事件もバグの一つとして処理されるに違いない。だがシステムアップすればするほど思いもよらないバグが発生することはある。それが致命傷にならなければよいが、という憂い、これがまずある。
 それともう一つ、かつてのようなバブルはいくらなんでもないだろうが、ある程度のバブル景気はありえるだろう。そうなったとき、個人のデイトレーダーやプロのトレーダーがオンライン上に在って、システムと一緒になって暴走しないか、という危惧である。つまり通常のバブルの上にシステム上のバブルがありはしないか、という危惧だ。これはもしあったとしてもバグではおそらくないだろう。だから気がついても直しようがないのだ。つまり現状の株取引システムというのは、コンピューター上のフィジカルなシステムと、蜜にたかる蟻という習性を持つ人のメンタルなシステムの二つが合わさった巨大なシステムではないだろうか。インターネットの普及がその合体を可能にさせたのだ。今度の事件がまず最初に現れたその顕著な例のような気がする。暴走しかかったがあの程度で済んだのである。これは今後もっと大規模なことが起こるかもしれないという警告と取るべきではないのだろうか。僕個人の杞憂にすぎないのであればこれは本当に安心なのだが。
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蜜にたかる蟻
 耐震偽装とジェイコム株誤発注、この二つの事件、もう日にちがかなり経ったが、少し書き留めておきたいことがあるので。

 最初なんだかわけのわからない事件ばかり起こるな、という思いだったが、ジェイコム株の事件のとき、なるほど、と思った。
 最初ネット上に誤発注の情報が流れ、それに気づいたデイトレイダーたちが次々と買いに走った。みずほ証券側が発注取り消しをあきらめて買いに転じるまでのわずかの間隙に、あっという間、何万株もの空売りが成立したのだ。まるで蜜にたかる蟻である。漏れている蜜に気づいた蟻たちがあっという間にたかってくるのと全く同じだ。

 耐震偽装事件、最初、きっと総研と木村建設が建設コストを安くあげる方法はないかとあちこち当たっていて、姉歯を使って民間の検査機関などを通せば劇的にコストを下げれることに気がついたのだ。あるいは検査機関もグルだったのかもしれない。つまり彼らは蜜につながる穴を発見したのだ。あるいはその穴を無理矢理こじ開けたのかもしれない。その穴を通ればいくらでも蜜が手に入るとわかって、いくらでもいけるぞ、どんどんいけいけ、と同じ手口を、つまり姉歯を使って同じ検査機関を通す、ということを何十回も繰り返してしまったわけだ。木村建設はホテルだけでなく独自に、同じく建設コストを下げることに血眼になっていたヒューザーと組み、マンション建設に同じことをそれこそ100回近く繰り返した。その穴がいつまでたっても塞がれないからだ。塞がれた時点で、計画的に倒産しようと木村建設などはそこまで計画していたのではないか。

 彼ら当事者の罪は深い。徹底的に弾劾する必要はもちろんあるだろうが、その穴を塞がなかった者の罪はもっと深いのではないだろうか。それは国である。国交省である。何故そんな民間の検査機関を野放しにしていたのか、そこを徹底究明しなければならないだろう。そうしなければまた別のジャンルで同じようなことが起こることは必定だ。なにしろ古今東西未来永劫、人とは蜜にたかる蟻に他ならないからだ。社会を管理する側はこのことを常に肝に銘じなければならないだろう。

って、社会を管理する側にも、もちろん蟻さんはうようよいるんだけどね。
文学が呻いている
気になるコラムがあったのだが、なかなかそれについて書く時間がなかった。やっと何とか書こうと思う。12月1日付産経新聞夕刊、秦恒平氏の「文学が呻(うめ)いている」。後半をそのまま抜粋する。

 平成の今日只今、文壇は文字通り「無残」であるが、これをさらに徹底破壊しつつあるのは、もう新文学青年達の思想や生活態度であるというよりも、時代と社会基盤(インフラ)の変化であり、変化の芯に仁王立ちした「コンピューター=電子メディア」という大魔神であろう。
今日「読みたい人」は減る一方、「書きたい人」は増える一方、と言われている。ホームページ。ブログ。とても「創作=creation」といえない低度・小規模の「製作・生産=production」であり、ほとんど全部が「商品」にも「文藝」にもほど遠い。通用しない。しかし「書かれ書かれ書かれ」ていて、当然ながら9割9分9厘「読まれていない」。
 驚くことにこの状況を、はるか戦前の昭和6年、批評家の杉山平助は、かなり正確に予見していた。少なくとも「文学の生産者と需要者の関係が、利潤にケーア(関心)を持つ仲買人の手を通じてではなく、より合理的な新しい社会機関(パソコン・携帯)を通じて結びあはされ」得る時代「だけ」は、現に今日実現している。
 だが現状、作者と読者はそこで質実に「結びあはされ」ていない。皆が「書き手=作者」へと殺到している。読者を見失った文学がいま呻いている。


とまぁこんなところだが、身につまされる。僕も含めてみんなが書き出したのだ。ブログの登場で、文学の生産者と需要者のバランスの取れた関係が完全に崩れてしまい、皆が「書き手」へと殺到している。実際僕自身ブログを始めてから恐ろしいほど他人の文章を読まなくなった。自分と関係している人の文章ぐらいがやっとだ。知り合いに小説家はいないので、ここ半年ほど小説の類は全く読んでいない。じゃ、何を読んでいるのか。ブログである。自分のブログのネタに関係してくる文章しか読まないのだ。そんな閉じた状況で僕は文学なんぞをやっていると言えるのだろうか。
まぁでも僕自身はいい。僕の文学仲間は意外にこのブログを読んでいてくれて、実にありがたい。感謝感謝である。だが文学全体にしてみれば、本当にいい文学がどれだけ読まれるのだろうか、残っていくのだろうか、という極めて重要な問題が生じてくる。皆が書いて書いて書いて、読まなくなったら、その書かれたものはいったい何のために存在しているのだろう。うすら寒い文学の未来である。