曇り日の海
 久しぶりに夫婦で海を見に行った。まん前に海が見えるベンチに座り、近くにある「なおき工房」というパン屋さんのパンをほおばりながら、ただ海を見ている、これだけで至福の時間である。海鳥がぱらぱらと飛んでいたり、大きな貨物船が通り過ぎたり、何も起こらなくても、ただ海だけを見ていた。波の模様は常に変化していて、永遠に同じ模様を見せることはない。次の一瞬にもう違う模様を見せるのだ。それをいつまでも見続けたこともあった。
 今日の海はどんよりと曇った空を映して暗いグレーだ。向うの方で大きな海鳥がゆったりと飛んでいるのが見える。また一羽、あっ、また一羽、2羽、だんだん増えてきた。かなり近いところを飛ぶのもいる。オオアジサシだろうか。全体にグレーぽい感じで、腹は白、両翼は有に1メートルは越えるだろう。何回もここに来てるけど、こんな鳥初めて見るなぁ、と二人つぶやいて、パンを食べようと眼を少しそらした次の瞬間だった。見上げたら、突然5メートルぐらいの至近距離に10羽ほどのオオアジサシが白い腹をこちらに向けて僕らの真上を通り過ぎるところだったのだ。オオ――、デカイ、ビックリしたー、二人とも驚いたこと、のけぞったこと。それは一瞬だったが、なかなか見られない光景に出会いラッキーだったのだ。大阪湾も捨てたものじゃない。悪名高き大阪湾もこの温帯気候における、数珠繋ぎの島国の中の、一つの入り江にすぎないのだから。黒潮に洗われる幸福な入り江の一つなのだ。
 しかし彼らは人間など全く眼中にないのだろうか。ちょうど彼らの移動する行程の真下に僕らがいただけなのだ、きっと。

 それは飛ぶことができずに言葉を愚弄するしか知らない僕らを、まるであざけるかのように通り過ぎていったのだ。

酸(す)ゆさとはこころの軋り群れつどふ海鳥あまたあざけりを秘め

角田純『海境』
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