アメリカという文化的遺伝子
文化にも生物の遺伝子に似て擬似的に遺伝子の概念があると、最初に僕が教わったのは、野口裕氏の日記からである。《野口家のホームページの日記より8月17日の日記》
ここに書いてあるように「利己的な遺伝子」を著したリチャード・ドーキンスがその文化的遺伝子を「ミーム」と名づけている。《参照》

文化的遺伝子「ミーム」とは、簡単に言えば文化も生物同様、伝播し複製されていくもので、その文化の基本単位のこと。生物の肉体などフィジカルなものをハードウェアと呼ぶなら、文化的なメンタルなものはソフトウェアと呼べる。ハードウェアを自分の子供に伝播させ複製させていく基本単位が従来の生物学的な「遺伝子」なら、ソフトウェアを家族やその共同体などに伝播させ複製させていく基本単位が「ミーム」である。
正直わかったようでわからない。
野口氏は、遺伝子に進化と退化があるなら、ミームにも進化と退化があるはずで、ストラディヴァリウスのようなもう再現されなくなった文化がミームの退化の象徴的な例ではないか、と書いている。この方がまだわかりやすい。この問題は野口氏に掘り下げてもらうとして、似てはいるが僕は少し別の方向に行く。

遺伝子に優性遺伝子と劣性遺伝子があるように、ミームにも(名づけるとするなら)優性ミームと劣性ミームがあるはずだ。
それはたとえばアメリカだ。アメリカ文化全体が優性ミームのかたまりのように思えてくる。次のラムシュタインの「アメリカ」というPVを見ればそれが怖ろしいほどわかるだろう。
《ラムシュタイン―「アメリカ」PV》
《歌詞(6番目)》

アフリカのマサイ族がテレビを見ながらピザを食べていたり、東南アジアの仏教寺院で信徒がハンバーガーを頬張っていたり、アラブで男がスニーカーを脱いで絨毯に正座し、石油コンビナートの方向にお祈りを捧げていたり、あるいはアラブ人がマールボロを吸っていたり、アフリカの草原でサンタクロースが黒人の子供たちをあやしていたり、中国の青年がハーレーダビッドソンに跨っていたりする。歌詞にも「パリの前にはミッキーマウスが立っている」とある。そして最後はあらゆる民族が

俺達はみんなアメリカの中に住んでいるんだ
アメリカは最高だ
俺達はみんなアメリカの中に住んでいるんだ
アメリカ、アメリカ
俺達はみんなアメリカの中に住んでいるんだ
コカコーラ、時には戦争
俺達はみんなアメリカの中に住んでいるんだ
アメリカ、アメリカ

と大合唱して終わる。
ここにある「ピザ」「ハンバーガー」「スニーカー」「サンタクロース」「マールボロ」「ハーレーダビッドソン」「ミッキーマウス」「コカコーラ」はみなアメリカ発の文化である。じつはサンタクロースがアメリカ発だったとは調べてみてはじめて知った。19世紀のニューヨークで誕生して瞬く間に広まったということだ。そんなに歴史はなく新しい文化なのである。

交通網の発達で世界中行き来が簡単になった結果、生物界において、「セイタカアワダチソウ」「ブラックバス」「西洋たんぽぽ」そして最近の通称「ウォーターレタス」などの優性遺伝子が、在来の劣性遺伝子の同一種を駆逐して瞬く間に日本中に広がった。同じように、交通網、情報網が発達した結果、文化面でも「サンタクロース」などの優性ミームが劣性ミームであるそれぞれの土地の従来の文化を駆逐している。文化のグローバル化とはつまりそういうことなのだ。島国の場合どんなに長い間そこに棲みついた生物でも、大陸で百戦錬磨で勝ち残った優性遺伝子にはひとたまりもないように、どんなに優れた文化でも世界で生き残った口当たりの良い、きらびやかな文化にはかなわないのである。その文化が簡単であればあるほど勝ち残る。そして世界中が簡単で口当たりが良いだけの安易できらびやかな文化のみに席巻され、人間の文化とはそういう文化だけに成り果てようとしている。ラムシュタインのPVはそれを警告してくれている。

ラムシュタインが歌うように、もう我々はアメリカの中に住んでいるのである。そして我々もその優性ミームの発信者になっているのである。世界中が今アメリカという優性ミームに覆いつくされようとしているのだ。

だがもちろんアメリカの文化だけが優性ミームではない。たとえば史上最強の優性ミームはコンピューターだ。コンピューターはアメリカ、日本、ヨーロッパなどの合作文化である。いまそれが世界中を侵食しようとしている。他にも世界中に優性ミームはいたるところにあり、もちろんそれが必ずしもアメリカ発とは限らない。そして世界中の人々は従来の自分たちの文化をさっと脱ぎ捨て、優性ミームに感染する。そしてすぐさまその優性ミームの保持者となり、彼らは新たにそのミームを発信する発信者となる。それはいとも簡単に。ここでその優性ミームをアメリカと言い直せばわかりやすい。アメリカの人には申し訳ないが。つまり、

我々はやはりアメリカの中に住んでいるのである。我々はだれもがアメリカそのものなのである。

ということになるが、まだ続きがある。ラムシュタインのライヴ映像を見つけた。

《ラムシュタインのライヴ映像》

ラムシュタインはドイツのバンドで、このライヴの場所はフランスである。最後彼らラムシュタインのメンバーが挨拶をするところで驚いてしまった。観客に対して、全員お辞儀しているのである。90度深々と、日本式だ。普通、ライヴでは投げキッスで終わるのが通例である。日本のバンドですら真似して、慣れない投げキッスをする。しかし日本と何の関係もないシチュエイションでお辞儀をするとは。お辞儀という文化もさては優性ミームだったのか。今、流行っているんだろうか。ひょっとしたら何年か後には世界中でお辞儀が大流行なのかもしれない。現地での様々な挨拶文化をお辞儀文化が駆逐してしまっているかもしれない。なんだかとても不気味だ。
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